大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和56年(む)222号 決定

被疑者 三浦利男

主文

原裁判を取消す。

理由

一、申立の趣旨および理由

本件準抗告の申立の趣旨および理由は、検察官検事宮澤俊夫作成の昭和五六年五月二四日付「準抗告及び裁判の執行停止申立書」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

別紙のとおり。

三、よつて、本件申立は理由があるから、刑訴法四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 藤野博雄 新城雅夫 野村尚)

別紙

一、一件記録によれば

昭和五六年五月二三日午前一時三〇分ころ、新栄団地に住む伊藤定子から、駐車場荒しがいる旨の連絡を受けた同団地管理組合の役員石山雄義、今井久夫は草加市新栄町一、〇〇〇番地新栄団地西側の第一〇駐車場に赴いたところ、同駐車場に駐車中の車内に被疑者がいるのを発見したが、被疑者の言動が不審だつたため、被疑者を新栄団地管理事務所に連れて行つたうえ、同じく役員の江沼俊臣に依頼して、草加警察署に通報したこと、同日午前二時二分に右通報を受けた草加警察署から派遣された刑事部機動捜査隊司法巡査宮下啓司らは、同事務所に赴き、石山雄義から事情を聴取するとともに、被疑者に対し、職務質問を実施したが、その際被疑者着用のズボンの後ポケツトからドライバー様の先端部がはみ出ていたので、被疑者に対し、その提示を求め所持の理由を質問したところ、右は、ドライバーであり、被疑者は「このドライバーで車のドアを開けるために持つているのです。」と答えたうえ、ドライバーの形状、所持態様及び被疑者の弁解状況等から、被疑者を軽犯罪法一条三号違反の現行犯人と認めるとともに、被疑者は、職務質問を受けた際逃走する態度を示したため、同日午前二時三〇分逮捕し同署に連行したこと、同日午前六時三〇分ころ、草加警察署渡辺昇巡査部長が新栄団地に赴き、窃盗被害について捜査したところ、吉田稔他三名各所有の車がドアの鍵がはずされ、物色されており、吉田稔所有の車内からは、軍手一双が紛失していることが明らかとなり、同日午前九時三〇分ころからの取調べにおいて、被疑者が右事実を認める供述をしたため、草加警察署は浦和地方裁判所裁判官から、吉田稔所有軍手一双の窃取の被疑事実で逮捕状の発布を得たうえ、同日午後四時三〇分、前記軽犯罪法違反については、被疑者を釈放し、同日午後四時三六分、前記逮捕状により被疑者を再逮捕したことがそれぞれ認められる。

二、ところで原裁判官は、被疑者を軽犯罪法違反の現行犯人として逮捕した手続を違法とし、その理由として、被疑者が当時携帯していたドライバーは、軽犯罪法一条三号にいう「他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用される器具」には該当せず、従つて、嫌疑のない者を逮捕したとするようである。

軽犯罪法一条三号は住居侵入、屋内侵入窃盗等の犯罪に結びつく抽象的危険性のある行為自体を禁止する趣旨であるから、同条同号の「他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用される器具」とは、客観的に侵入の用途に用いうる性質を備えたものであれば足り、これを携帯する者が、これを侵入のために使用する意図を有することは必要でないと解すべきところ、被疑者がズボンの後ポケツトに隠し携帯していたドライバーは、その形態からしてこれに該当するもので、また所持態様等より正当な理由がないことも明らかであり、被疑者は、石山雄義らに住所、氏名を明らかにしているものの、前記のとおり警察官が職務質問を実施している際、逃走を試みているのであるから、被疑者を軽犯罪法違反の現行犯人として逮捕したのには相当な理由があり、違法なものとはいえない。

従つて、右軽犯罪法違反による身柄拘束中に得られた余罪の窃盗に関する疎明資料は、違法な手続により、収集されたものとはいえず、その後の通常逮捕手続、勾留請求をも違法とするものでもないのであつて、結局叙上認定と抵触する原裁判官の判断は相当でない。

三、そこで、本件被疑者の勾留理由の有無につき判断するに、一件記録によれば、被疑者には本件窃盗につき罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、被疑者には、昭和五五年一月妻と離婚し、現在四才になる長女と二人暮しであること、前科はないが、被疑者自身も認めるとおり、他にも同種余罪を敢行している疑いがあり、本件犯行時においても前記のようにドライバーを隠し携帯していたこと、山形市内の職業訓練校を一〇ヶ月位で中退した後、自動車整備工場、建築会社、運送会社等頻繁に職場を変えていること等が認められるのであつて、現段階で被疑者を釈放した場合、逃亡すると疑うに足りる相当な理由もある。

準抗告及び裁判の執行停止申立書(甲)(略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例